紅色カフェテラス

 

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風が穏やかに吹き抜け、太陽は燦々と眩しく、鳥たちの歌声が爽やかに響く。

ティーパーティーを催すにはこれ以上にない、とある上品な午後の一幕。

「まったく、また寝てたら天井にドカーンとぶつかっちゃてね! イイところで夢も終わっちゃうし、嫌になっちゃうよー、ほんと!」

淹れたての紅茶を匂いも味も気にせずぐいっと飲みほし、窓から差し込む日の光で、赤髪をきらきらと宝石のように輝かせる少女、昇千妃八恵は吠えた。

テーブルに置かれたティータイムのお菓子を手当たり次第に口へ放り込み、溜まった不満をまき散らす様子は、優雅とは程遠く、正直この場面には相応しくないが、当人はそんなのお構いなしの様子。

「喚くな喚くな、いつものことだろ」

「そう、いつものこと……だからこそ、悔しいのだよ! ユカっちだって、毎回毎回同じ嫌な事が続いたら嫌になるでしょ?」

「そりゃそうだけど、毎回毎回同じ感じで家に押し掛けられて、愚痴を聞かされるあたしのことも、少しは考えてみたらどうだ?」

「ふふん、そんなこと言って、私があっちに行くって言って帰ってきたら、毎回ご丁寧にティーパーティ―の準備をしているのはどこのユカっちかな……あいた!」

「うっさい、もっとしっかり茶でも味わえ」

こつんと八恵の頭を小突きつつ、彼女の空っぽのティーカップに紅茶を注ぐ茶髪のお団子ヘアー少女は、今回の茶会の主催者でもある、ユカっちこと、紺乃宮結奏である。

八恵に紅茶を注ぎ終えた結奏は、暗く深い紺色の瞳を静かに閉じ、香り立つ紅茶をそっと啜った。

八恵の言う通り、いつの頃からか、気付いたら結奏は八恵が雑務から帰るのに合わせて、ティーパーティーを催すようになっていた。

どうして恒例になったのか、もはや結奏も覚えていないが、恐らく菓子や茶などを口に入れさせることで、物理的に少しでも喋れなくさせ、八恵のマシンガントークを抑止するために始めたのがきっかけだったのかもしれない

とはいっても、八恵の掃除機っぷりは中々のもので、これは殆ど機能していないように見えた。

実際、数瞬前に結奏が入れたばかりのお代わりの紅茶は、既に八恵のティーカップに殆どなく、そろそろお供のお菓子セットも無くなりそうだった。

恐るべき吸引力の八恵を半目で眺め、結奏はため息交じりに口を開いた。

「そもそも、だ。いつもあんたが言ってるその話、別宅の方で寝なければいい話じゃないのか? 雑務が済んだら、すぐ帰ってくればいい」

「いやいや、私だってそれができるならそうしてるよ! でもねぇ、あんなすごくメンド―な雑務をこなした後の私に、こっちまで即直帰できる力なんて残っていないわけで……寝ること必然、不可避!」

「ほんとに不思議なんだが、あんたが神として、こなさなきゃならない雑務ってのはそんな大変なのか?」

「んー……ユカっち向けに例えるなら、丸一日休みなしの演奏会を、二週間ぶっ続けでやるような感じかな?」

「……それって、そんな大変か?」

「……」

一流な音楽家として名を馳せている結奏は、音楽絡みのことになると途端に、化け物じみた様相を呈することが度々あることを、八恵はすっかり忘れていた。

そういえば以前にも、結奏が一ヵ月ぶっ通しで地方遠征演奏会、兼、講習会を何の苦もなく、楽しそうにやり遂げていたのを思い出し、きょとんと不思議そうにする彼女に、今日初めて、八恵は眉を八の字にさせた。

「ごめん、私の例えが悪かった。じゃあ、別の例で言うなら……三日間、ソヨっちと女子会合宿デートとか?」

「え、あー……そうだな、それはちょっときついかも」

今度は結奏が少し困ったような顔になって、八恵のその例えに、思わず笑ってしまった

この場にはまだ来ていない、本日の茶会メンバーでもある八恵と結奏の心友、ソヨっちこと、明燈想陽子。

想陽子は、八恵と結奏の三人の中では一番女の子として自分磨きをしている、いわば女子力お化けである。

一方で結奏は、音楽に関係することはとにかくストイックに取り組む反面、それ以外のことは意外と抜けていたり、ずぼらな節があったり、女子力的な部分は一番弱かったりする。

そして、あまりにもあんまりな結奏を見かねて、最近は想陽子が結奏向けに女子力アップ講座を開いているのだが、如何せん結奏にとっては少々苦手な分野であり、自分のことを想ってくれている想陽子に嬉しく思うと同時に、ちょっとだけ苦労の念も感じていたりするのであった。

「そういうわけで、ユカっちが思っているよりも、神様として力をフルで使っても、大変なものは大変なんだよん」

「まあ、そういうことにしておこう」

「んでもって、今回もやるべき事は無事にやり遂げて、今は私を縛るものなど何も無いッ! 解放なのだよ~と」

「はあ」

「ということで、あれ頂戴」

「はあ?」

「だーかーらー…あれ! 頑張ってきたご褒美! 撫で撫でして!」

「いやだ」

「拒否はや! てか何でよー!」

八恵からの抗議の声を無視し、結奏はまた紅茶を口へ運ぶ。

今日も美味しくいれられたなと、結奏は、風味豊かに透き通る紅茶の仕上がりに、改めて顔がほころんだ。

茶会が恒例化してからというもの、折角嗜むならということで、結奏は次第に、紅茶の美味しい淹れ方を自主的に学ぶようになっていった。

最初のうちは例によって、想陽子に相談して紅茶のイロハを教えてもらい、近くの店で売っている一般的なティーバッグで簡単に作って済ませていたが、今では色んな地域の種類の茶葉を買い付けて自分好みのものを探究するぐらいになり、紅茶に関しては、想陽子よりも拘りが強くなったようだ。

「結奏ちゃんは一度火がつけば、私よりも拘りを持って物事に取り組むところがあるから、それを自分磨きの方面でも発揮してもらいたいの! だって結奏ちゃん、ポテンシャル高いんだもん!」とは想陽子談。

「ちょっとユカっちー! 聞いてんのー! 無視すんなー!」

――それにしても喧しい。

このままでは、おちおち茶も堪能できそうにないので、仕方なく、再び溜め息と共にティーカップをテーブルに置き、結奏は八恵を見据えて口を開いた。

「期限ギリギリまでやるべきことを溜め込んで、頑張らなくちゃいけなくなったのは自業自得だし、それをやり切るのは当然のことだろ? そんな当たり前のことに対してご褒美ってのは、考えが甘いんじゃないか?」

「あのさ、ユカっち、正論がいつでも正義とは限らないよ」

「いやいや、そんな切れ気味に言われても」

「とにかく……そんなこと言わないでさ! ほらほら、私の頭撫でたらパワーアップするよ? 御利益あるよ? 楽しいよ?」

「今日淹れた、この一杯の茶を味わう方が楽しいぜ」

「にゃにゃ、そう言わないでお願い! 頭が撫でられたがってるんだ」

「だーめ」

「そこを何とかユカっち! 撫で心地抜群だから!」

「いーや」

「ユカっちー!」

「いい加減うるさい! だめなものはだめ! 今日は甘やかさん!」

あまりにしつこい八恵に、つい語気が強くなってしまった結奏。

「……ぶー…ユカっちのケチ……いじわる……」

しゅんと肩を窄め、俯く八恵。

「……」

どことなく気まずい空気が流れ、沈黙が訪れる。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……ぐすん」

  

「……あー、もうっ!」

「にゃ!」

そっと、結奏の暖かな手が八恵の頭に置かれ、そのまま撫でおろされる。

「……泣くなんて、卑怯だっ」

頬を紅く染めながら、結奏は呟く。

「……ありがと、ユカっち!」

「ふん!」

そっぽを向いているものの、結奏の手は、何度も、何度も、優しく八恵の頭を撫で続けた。

 

いつもの時間が流れ、いつもの風景がそこに在る、そんな些細な日常。

今日も日差しは、二人の少女を、朗らかに包み込むのであった。

 

 

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[ヤエ's comment]

何処の世界でも涙は(-オンナ-)の武器。

そこに笑顔も付けばフル装備、倒せない敵はいないのです。

 

2020/12/25 微修正を実施

2020/10/25 優雅に加筆修正を実施・"コメント"でアフターが覗けます