夕刻に濡れる白百合 -verita-
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「もう、いい? 八恵ちゃん」
「うん…大丈夫。じゃあ、続きしよっか、ソヨっち」
お互いの意思を確認し合い、火照った身体を休ませ終えた2人の少女、昇千妃八恵と明燈想陽子は、再びその身を寄せ合った。
「……ふふ、流石に手馴れてきた感じかな?」
「私だって、何度もやれば学習するんだよっ」
「そうは言っても、まだ若干ぎこちないような?」
「だーめ、もう手出し禁止」
背中に回されかける、温かな八恵の手を、想陽子はそう言って制した。
散々同じようにレクチャーされ、そろそろ培った自身の技量だけでも上手くやれるんだと証明したい、彼女のちょっとした意地の表れだ。
「ふーん、なら今回は完全にお任せするよん」
「うん、任せて……じゃあ、始めるね」
八恵が、そっと開始の合図をした想陽子の方を見てみると、さきほどまで穏やかだった想陽子の顔つきは活気付いて、強気なそれになっていた。
そのやる気を醸し出す表情に、八恵はついゾクッとしてしまった。
「……ん、イイ動きだねぇ。気持ちいい」
「ふふ、まだまだっ」
彼女たちの精神、及び神経は、試行回数を重ねる毎に研ぎ澄まされていた。
寄せて触れ合う身体から、お互いにどう動くのがベストか、そんなことさえ伝わりあう。
そして、脳からの指令を指先が敏感に受信し、最適な動作を実行する。
「ふにゃっ、そんなテクニシャンな……」
「これも、八恵ちゃんがさっき教えてくれたことだよ?」
「んむぅ、ソヨっち、実は中々素質あるかもねぇ……んにゃっ」
「八恵ちゃんも、流石だね……あっ」
想陽子の、この短時間での成長っぷりに、八恵は素直に感心した。
それと同時に、八恵は頬を紅潮させ、思わず声が漏れ出してしまうほどに、興奮していた。
だが、それは彼女だけでなく、想陽子もまた同じであり。
想陽子は自身の、大きく、大胆で、同時に細かく、繊細でもある、テクニカルな動きに応じるように繰り出される、八恵の的確な攻めに、強く快感を覚えていた。
2人の気持ちは、お互いの上昇する体温を感じ合いながら、ますます高揚し続けた。
「この調子……なら」
「うん……そうだね」
「……どうする? この先は、ソヨっちの成長っぷりへのご褒美として、一人でいかせてあげよっか?」
満足げな笑みを薄らと浮かべながら、八恵は、そんなことを提案してみる。
しかし、想陽子はちょっと意地悪げな口調で告げる。
「……ふふ、なーに、それ? 私が、こんなに気持ちよくできるまでに上達したのは、偏に、八恵ちゃんの教えがあったからこそなんだよ?」
「ま、まあ……そうなのかな?」
「当然でしょっ。だーかーら……一緒に、いこ? 私一人なんて、嫌だよ」
頬を紅くさせた想陽子は、その言葉を口にするのに少し恥じらいを感じつつも、甘い声で囁いた。
「……にゃは、ソヨっちがそこまで言うなら、喜んで……!」
両者の想いが高まるに従って、しっとりと濡れた互いの指先の動きは、激しさを増していく。
ギシリギシリと僅かに軋むソファの音と、少女たちの熱を帯びた吐息が、明かりの点いていない薄暗い部屋へ、静かに響き渡る。
「八恵、ちゃん……そろ、そろ……」
「んにゃ……そう、だね……」
終焉にもたらされる快楽を求め、彼女たちは感情を、そのままに解き放った
「んんっ……八恵ちゃん……八恵ちゃん……!」
「ソヨっち……ソヨっちぃ……!」
その瞬間を同時に迎えようと、その瞬間が一緒に悦びで満たされようと、お互いがお互いを求め合うように。
彼女たちは、まさに、一心同体となった。
そして、夕陽が沈み、黄昏の闇が少女たちを飲み込んだ時――
「んにゃ~! ボス撃破~!」
「やったね、八恵ちゃん! 遂にクリアだよっ! お疲れさま~!」
静寂を打ち破って、八恵と想陽子は溢れんばかりの笑みを浮かべながら、歓喜の声をあげ、抱きしめ合った。
「こちらこそお疲れ、ソヨっち! いやー、それにしても長かったねぇ」
「ごめんね、私が操作に慣れるまで、随分時間掛かっちゃったから……」
「いやいや、私も諸々のタイミングを間違ったりで、ダメだった部分があるし……というか、コツ掴んでからのソヨっち、上手すぎでは?」
「えへへ、ありがとっ。八恵ちゃんの、熱心な指導の賜物ですっ」
「にゃっはは、それほどでも~……てか、部屋暗ッ! 明かり明かり~」
「あはは、あまりに熱中してて気付かなかったね……あれ、結奏ちゃん?」
自分たちが部屋の暗さに気付かない程に熱中していたことに可笑しさ感じつつ、想陽子は後方、明るくなった部屋の入口の方を、振り返って見てみた。
すると、そこには扉を半分ほど開け、こちらを覗き込むこの邸宅の主、紺乃宮結奏の姿があった。
「あ、ユカっち! おっつー……って、そんなとこで何してんの?」
「……え? えぇ!? い、いや? い、今帰ってきた、ば、ばかりだけど? だ、誰か部屋に居るみたいだから、の、覗いてみた、っていう?」
たどたどしく、そして明らかに、何かに動揺した口調で話しながら、もじもじと歩み寄ってくる結奏。
「結奏ちゃん、今日は演奏のお仕事は夕方で終わりって言ってたから、よければ皆で一緒に、ディナーでもどうかなって思って」
「とゆーわけでいつもの如く、帰ってくるまでユカっち邸で待機してたってわけよ」
あっけらかんと話す少女たち。
結奏はそんなの聞いていないかのように、荒げ気味に声を発した。
「……そ、それより! お、お前らっ……さっきまで、な、何してたんだよ……」
そう言った彼女の顔は、何故か、余すところなく紅色に染め上っていた。
「んにゃ? 何って、ゲームだけど?」
「……は? ゲ、ゲーム……?」
「そうなの、結奏ちゃん、見てこれ!」
笑顔で想陽子が差し出した板状の物体、それは表層部分が煌々と輝き、その光の中には「ステージクリア」という文字が読み取れた。
「この板みたいな物は、タブレットって言うんだって。それで、この小さいのがコントローラーなの」
タブレットとは別に、出っ張ったスティックとボタンを有する、小さな制御装置のような物を、想陽子と八恵は一個ずつ持っていた。
更に、想陽子が説明するところによれば、この二つのコントローラーはタブレットの両端に取り付けられ、一体型のデバイスとして扱うことも出来るらしい。
「いやぁ、先日ちょっとした用事で出掛けた時に、その出先で見掛けてね? 中々面白い物を考えるなぁと思って、お土産で買ってきたのだよん」
「でね、結奏ちゃんが帰ってくるまで、このゲームで遊んでよーってことになって」
「でも、ただ普通に遊ぶのじゃツマらないから、ちょっと一工夫……というか、縛りを加えてプレイしてたわけよ」
「こっちの左側のコントローラーはプレイヤー操作がメインで、主にそっちの右側のコントローラーで、敵に対して攻撃や防御、あと画面の視点移動をしたりするんだけど」
「私とソヨっちで、攻撃・防御・視点・移動と、プレイヤー操作を役割分担しよう、ということで」
「それで、私が左側コントローラーの操作担当、八恵ちゃんが右側コントローラーの攻撃防御と視点移動を担当して、ずっとプレイしてたの!」
八恵と想陽子の口から交互に説明される話を聞く結奏は、口を半開きにし、呆然としていた。
「最初は移動とカメラワーク、攻撃と防御のタイミングとかが全然噛み合わなくて、全く話にならなかったけどねぇ」
「でも、何度も何度も繰り返しやってるうちに、私も八恵ちゃんも操作に慣れて、コツも掴めてきてね」
「段々と言葉を交わさなくても、どうすれば最善に繋がるか、それがお互いの触れ合う身体から伝わりあって」
「そして、紆余曲折ありつつも、遂に、私たちはやり遂げたのです……! ほんと、嬉しいね、八恵ちゃん!」
「うんうん、私も嬉しいよん……! にゃはは、大好きだソヨっちー!」
「も、もうっ、そう言ってさり気なく、胸に顔埋めないでよ八恵ちゃ~ん! ひゃうん」
自分たちがまさに、心を一つにして、協力して目的を果たしたことに、際限ない悦びと愉しさを覚え、二人の少女は嬉々としてじゃれ合った。
その一方、結奏は完全に魂が抜け、生気を失っていた。
だが、それも仕方のないことであろう。
自分が見た光景、その状況を説明するために、脳内補完を以て帰着した結奏の真実と、八恵と想陽子によって実際語られた事実、それらは、恐ろしい程に乖離していたのだ。
そして、その誤認によって生じた羞恥、それは、結奏が恥ずかしさのあまり憤死してしまうには十分過ぎる程に、大きなものだったのだから――
「さてと、んじゃまあユカっちも帰ってきたわけだし、早くご飯食べにいこ~。お腹ぺこぺこー」
「うん、そうだねっ。結奏ちゃん、どこか行きたいお店とかって……ん? 結奏ちゃん? どうしたの?」
「……くれ……」
「んあー? ユカっちー?」
「……うぅぅぅ! ころしてくれ! あんなことを考えてしまった、こんなあたしを、頼むから、ころしてくれーっっ!!」
「ちょっ、結奏ちゃん!? どうしたの、落ち着いて!」
「あたしをころして、あたしもしぬぅぅっ! うわぁぁぁん!」
「ユカっちが……ぶっ壊れた……」
突如として泣き喚きだした結奏を、想陽子は必死に抑え、今まで見たこともない彼女の姿に思わず呆気にとられた八恵は、暫く、目の前の光景を眺めることしかできなかった。
その夜、結奏はいつもより格段に度数の高いワインやウィスキーをたらふく飲み干し、珍しく、八恵たちに介抱されながら帰路についたという。
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[ヤエ's comment]
八恵と想陽子をこっそり覗いていた結奏、声を掛けられなかったら一体どうしてたのやら。
何はともあれ、真実を知らない八恵と想陽子を前に突然発狂して、挙句ヤケ酒までに走らなくてもねぇ。
[ヤエ's 裏 comment]
敢えて言ってしまいますが、前半部分のミスリードを誘うような描写の仕方は、ライトノベル作家の蒼山サグ先生をリスペクトした感じです(むしろ今回の話は、前半部分を書くためだけに生まれたようなもの(^^;
サグ先生には到底及ばない相変わらず拙い文章ですが、それでも結奏の頭の中で広がっていた景色がどんなものだったのか、少しでも察してもらえたなら、今回の試みは成功ですかねぇ。
あ、もし今回の話を読んでサッパリ意味不明だった場合は、完全に私の技量不足が故の結果です(が、もしかしたら読者の方の心がピュア過ぎるのも原因かもしれません?)ので、こんな話は見なかったことにして、お酒でも飲んで忘れてください(^^;
2020/12/25 微修正を実施
2020/11/1 耽美に修正を実施