Verre de Jardin Miniature

 

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「ねぇ」

「なぁに」

「人が生きる意味って何なのかしら」

「あら、レポートなんて課されていたかしら。哲学の講義もほんと退屈ね」

「レポート課題なんかじゃないわ。それにあんな講義まともに受ける必要ない。まあ成績Sは確実でしょうけどね」

得意気に笑みを浮かべる彼女をよそに、表情を変えぬまま口を開く

「人が生きる意味…ねぇ。愉しくなるためじゃない」

「愉しくなってどうするの」

「笑う?」

キュッと指で口角を上げてみせる

「あなたの笑顔は好きよ」

お返しと言わんばかりに、にっこり微笑む彼女も素敵で可愛らしい

「まあ生きる意味なんて人それぞれじゃないの。死んじゃう人は途中で死んじゃうし」

「そんなあなたの生きる意味はどうなの」

「うーん、悔いを残さず死ぬこと?」

「ありきたりね。愉しくなって笑顔で日々を過ごすことが悔いを残さないことなの」

「私は違うわよ。別に愉しい必要はない。毎日の中で生きてる実感を得ることが大事なの。それを積み重ねたものこそが自身への最高の手向け花となって意味を成すのよ」

「苦味もスパイスね」

「甘党だけどね」

空っぽの教室から抜け出て、いつものカフェへ足を向けることにした

道中構内は人で溢れ、個を以て群を成し、各々が固有の場を作ってる様相だ

みんな何を思って生きているのだろう

彼らは如何様に己の生を考えているのか

興味深くもあるが、どうでもよくもある

 

カラン―――

 

「着いた着いた」

「さぁて、今日はどれにしようかしら」

カフェは相変わらず空いていた

最近オープンしたということもあってまだ多くには知られていない穴場なので仕方もない

だがオレンジの柔らかな照明で満たされた店内の雰囲気は抜群で、種類豊富なパフェはどれもほっぺが落ちそうになるほど美味しいと既に彼女は病みつきの常連様だ

どうやら今日は新鮮な果物が盛り沢山のフルーツパフェをご所望のようだ

「で、色々一方的に聞かれたわけだけど、あなたの生きる意味は何なのかしら」

「私…私の生きる意味は……有益であること、かな」

「愛の結晶として?」

「それはそれで素敵なことだと思うし、あなたとだったら喜んで作ってみたいものよねぇ」

運ばれてきたパフェを目の前に瞳を爛々とさせ、ちょっと酸っぱい赤い苺に甘い白のホイップクリームを絡ませて頬張った口元を舌で舐めた彼女の顔は、しかし何かを見据えるような表情で

「でも……もっと高尚な話よ」

 

ゾクリ

 

あぁ、またね、いつもそう

彼女はいつだってこうなの

どこかフンワリとしているのに、突然近寄ってきて間近で見つめられる

軽く接吻を交わし、うなじをそっと撫でられるような、そんな感覚に襲われる

でも、それが気持ちよくて、抗えないのが少し悔しい

「詳しくお聞かせ願いたいわね」

「私は構わないけど、きっと許されないでしょうね。口が裂けても私は綺麗だけど」

「だろうと思った。こんなのでSが取れそうとか、ひょっとして哲学の教授も同類なんじゃないの」

「見れば分かるでしょ。きっと三人並みぐらいの人だけど、それでも所詮普通の老いぼれよ。むしろ私が彼並に合わせてるというのが正しい」

「私にも合わせて欲しいわね」

「そう言って、分かってるんでしょ」

呆れた顔にどことなく楽しげな含みを見せながら聞く彼女にはやはり勝てそうにない

「ふふ、愉しいものね。言葉すらも無用の代物となるのだわ」

「道具はどこまでいっても道具、使いたければ使えばいいだけ」

「マンネリ防止には有効よね」

そうねと笑ってテーブルを立った彼女はカウンターにお代を済ませに行った

テーブルに置かれた空きのパフェグラス1つは不思議なほどに綺麗に透き通っていて、どれほど具材を入れようとも溢れない気がした

「さぁ、行きましょう。あなたの生きる意味を尊重してあげる」

「それって同時にあなたの生きる意味も満たすんじゃない」

「あら、そうかもね。一石二鳥?」

「一鳥でしょ」

「でも二鳥の方が愉しい」

「もう一鳥増えたりして」

「面倒よ。これで十分」

 

店を出て少し歩くと街の喧噪が聞こえてきた

「ところで有益になってどうするの」

「笑う?」

「笑える?」

「まあ、きっと悪いことじゃないから」

「奇遇ね、同じくそんな気がするわ」

ケタケタと彼女と笑い合った今この瞬間に、眩い生の光を感じた